「証券取引等監視委員会が東芝元社長3名を事情聴取」とのニュースの解説

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吉田 泰郎

高松の弁護士吉田泰郎です。東芝事件株主弁護団では、事務局長 兼 広報担当をおこなっています。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら

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 証券取引等監視委員会が歴代の3人の社長から任意で事情の聴取を行ったようです。

 証券取引等監視委員会は,現在も,歴代社長を刑事裁判にかけることができるように精力的に活動しているようです。

 一方で,東京地検は,平成28年7月に「立件は困難」との見解を示しています。歴代社長を起訴し,歴代社長を刑事裁判にかけるかどうかを判断する権限は,検察官にあります。そのため,証券取引等監視委員会は,検察官が起訴できると判断できるように(判断せざるを得ないように)現在調査をしていることになります。

 

 しかし,なぜ,証券取引等監視委員会と検察との間で見解が分かれているのでしょうか。見解が分かれているものの一つが,ノートパソコン部門で行われていたBuy-Sell方式の悪用です。

 

 ここで,Buy-Sell方式について簡単にして説明しようと思います。

 A社のノートパソコンの組み立てを委託されたB1社B2社B3社が行っているとします。通常,部品の調達は,B社が行い,完成品をA社に売るという形をとります。

 しかし,各B社の購入量が少ない場合や,各B社の企業信用力に問題がある場合,調達条件が不利になります。簡単に言えば,まとめ買いをする方がお得にする,たくさん売っても,代金を支払えなさそうだから,少ししか売らない,という判断をされる可能性があるということです。

 そこで,A社が部品を調達したうえで,各B社に部品を売り,各B社が,その部品を使ってノートパソコンを製造したうえで,完成品をA社に売ります(A社が買い戻す)。これが,Buy-Sell方式の簡単な説明になります。

 東芝の場合,部品調達価格に,「マスキング価格」というのが設定されていました。これは,部品の調達価格に一定程度の金額を上乗せして,売買価格を設定しておくことにより,部品調達価格がわからないようにするメリットがあるため,採用されていました。

 

 ここまでは,証券取引法違反にはなりません。問題なのは,この後の会計処理です。Buy-Sell方式を利用した場合,決められた価格で部品を売ったとしても必ず決められた価格買い戻さなければならないため,実際には利益は発生しません。実際には,倉庫から工場に移して倉庫に戻すのと変わらないのです。

 そのため,Buy-Sell方式を利用した場合,部品を売ったことにより,利益にはならない為,「収益」と会計処理してはいけません。しかし,東芝は,これを「収益」として会計処理をしていました。

 そのため,証券取引等監視委員会は,東芝の行為を違法として歴代社長を刑事告発しようとしているのです。一方で,検察は,実際に取引がある以上,架空取引ではないため,問題ないと考えているようです。

 

では,Buy-Sell方式において,「収益」と計上して悪用するとどうなるのでしょうか。

 極端な例ですが,A社とB1からB3社をモデルに,部品の価格を1万円として「マスキング価格」を含めて,100万円,完成品の価格を5万円,商品の販売価格を10万円と仮定します。なお東芝の「マスキング価格」は,調達価格の4~8倍にもなっていました。

まず,A社は,1万円で部品を調達します,これを各B社に100万円で売ると,部品価格3万円,売買価格300万円(3社分)となり差額297万円となります。この297万円を利益として会計処理するとA社は,297万円の売り上げがあったことになります。

しかし,完成品5万円に,100万円を上乗せした315万円(3社分)で買い戻さなければならないので,実際には,297万円の利益は存在しません。利益が発生するのは,完成品10万円を売った時です。

会計上収益として処理すると297万円の売り上げがあることとなります。さらにこれを,期をまたいで行うと,当該期に買い戻す際の支払いは,存在しないため,売上のみが計算書類上に現れることになります。そのため,実際には,15万円の売り上げしかないのに,一時的に297万円の実態の無い売上を作出することができてしまいます。極端な話し「マスキング価格」を上げるだけで,売り上げを上げることができます。「3日で120億円の業績アップ」も簡単にできてしまうのです。

そして,一度,Buy-Sell方式の悪用を始めてしまうと,次の期をまたぐ際には,計算書類に買い戻しの支払いのマイナスが付くため,再度同じように「マスキング価格」を設定しなければ,業績を維持できず,(実際に業績が上がっていなければ)「マスキング価格」を上げなければ,業績アップができず,悪用が常態化してしまうのです。

これが認められてしまうと,実態の無い売上を簡単に作出できてしまうため,会社の計算書類を信用できなくなり,証券取引ができなくなってしまうため,証券取引等監視委員会は,厳しい処分を求めているのです。

 

他にも,歴代社長が不正を知っていたうえで指示していたか(故意)の立証など,検察が起訴をためらう理由があると思いますが。今回はここまでにしたいと思います。