個人株主が新日本監査法人に対して株主代表訴訟に踏み切った理由

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吉田 泰郎

高松の弁護士吉田泰郎です。東芝事件株主弁護団では、事務局長 兼 広報担当をおこなっています。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら

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 東芝の個人株主が会計監査を担当した新日本監査法人に対して,平成28年9月20日,約105億円の損害賠償請求を求める株主代表訴訟を起こしています。

 どうやら,105億円のうち,73億円は,東芝が納付した課徴金,30億円は,不正発覚後の追加の監査報酬のようです。

 

 73億円の課徴金の部分については,東芝が不正会計を行ったことに対する課徴金ですから,不正会計を発見できなかった責任が新日本監査法人にあるとしても,主たる責任は,東芝にあると思われます。

 一方,追加の監査報酬については,過失により,東芝の不正会計を発見できなかったうえで,不正会計を正しくするための監査の報酬を支払っていることになります。

そのため,新日本監査法人が,不正会計をきちんと発見できていれば,追加報酬は支払う必要が無かったのですから,理屈のうえでは,請求できる可能性はあるのかもしれません。

 

 ここで,東芝の個人株主が,新日本監査法人に株主代表訴訟を提起できる根拠について,解説したいと思います。

 会社法第423条1項は,「取締役,会計参与,監査役,執行役,又は会計監査人は,その任務を怠ったときは,株式会社に対し,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。

 東芝の事件に当てはめると,「株式会社」は東芝に当たります。そして,「取締役」は既に,東芝や個人株主より,訴訟を提起されている,歴代の社長などの役員が当たります。そして,新日本監査法人は,「会計監査人」に当たります。

 そして,会社法847条に基づいて,必要な手続きを取ったうえで,株主代表訴訟を提起することができます。

 

 会計監査人に対して,個人株主が株主代表訴訟を提起することは非常に珍しい事です。

 まず,会計監査人に対して,株主代表訴訟を提起することが,法律上認められたのが,会社法ができてからのため,そもそも,歴史が浅いということがあります。

また,会計監査人は,株式会社の計算書類について,外部監査を行うことにより,株主・債権者の利益保護を図るものであると言われています。そのため,会計監査人の仕事は,会計に関する監査に限られます。

そうすると,取締役や監査役等と比べて,会計監査人の職務の範囲は狭く,また,会社外部の者ですから,「任務を怠った」という評価を受ける可能性は,一般的には,あまり大きいとは言えません。

 

さらに,会計監査人の職務は,会社の会計に関するものですから,専門性が高く,一般の株主が「任務を怠った」という判断をするのが難しいという事情もあります。

また,計算書類という秘匿性の高いものに関する職務ですから,「任務を怠った」と判断するための資料の収集自体も難しいと考えられます。

そのため,会計監査人(監査法人)に対する株主代表訴訟が提起されることは,他に類例が少ないのです。

 

 今回,東芝事件について,会計監査人である新日本監査法人に対し,株主代表訴訟が提起された,背景事情には,どういうことがあるでしょうか。

 

一番の決め手は,金融庁が行った新日本監査法人に対する「相当の注意を怠り,重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した。」ことを理由とする課徴金処分だと思います。

 

金融庁が十分に調査のうえで,新日本監査法人が相当の注意を怠った,と認定しているのです。

したがって,「過失」があったと判断される可能性が出てきたと思われます。

 

そのような,金融庁の判断が背景事情にあったからこそ,今回,個人株主の方も,新日本監査法人について株主代表訴訟提起に踏み切ったのだと思います。