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東芝粉飾決算「アメリカでの集団訴訟が棄却された」という報道について

東芝の粉飾決算による損害賠償請求について,アメリカのカリフォルニア州で起こされていた集団訴訟が棄却された,という報道がありました。

 

この点について,若干,解説したいと思います。

 

アメリカでの東芝に対する集団訴訟は,いくつかのグループに別れて起こされています。

ひとつのグループは,東芝の「米国預託証券」というものをアメリカで買っていたグループです。

「米国預託証券」は,株式そのものではなく,「株式を銀行が預かっているという証明書」の売買です。

アメリカの証券取引所に外国籍の企業が上場したい場合には,こういう「米国預託証券」制度を使うことが多いのです。

「米国預託証券」を買っているのは,アメリカ国内の個人株主が多いようです。

 

「米国預託証券」は,株式と同様に証券取引所で売買できますから,株式と同じ値動きをします。

ですので,東芝の不正会計問題によって,「米国預託証券」も証券取引所での価値を大きく下げました。

そのため,アメリカ国内の投資家が東芝に対して損害賠償請求を起こしているようです。

 

別のグループは,東京証券取引所で東芝株を買っていたアメリカの投資ファンド系のグループです。

投資ファンドは,数百億円というお金を動かしますので,発行している株式数が多いこと(流動性があること)を必要とします。

先に紹介した「米国預託証券」は,流通している絶対量が少ないため,投資ファンドが投資するには不向きです。

ですので,投資ファンドが東芝に投資したい場合には,アメリカではなく,東京証券取引所で直接東芝の株式を買うことが多いのです。

こちらは,買っていた株は,私たちと同じ東芝の現物株ですが,アメリカで裁判を起こした方が有利であるため,アメリカで裁判を起こしています。

 

「米国預託証券」をアメリカで買っていたグループについて

「米国預託証券」をアメリカで買っていたグループについては,「米国預託証券」を売買していたことについて,アメリカの証券取引法などの適用があるのかどうか,という点が法律上の争点となっていたようです。

(本当にどういう争点であったのかについては,詳しい情報がないため,新聞で報道されているかぎりの事実を前提としていますが)

アメリカの証券取引法は,上場会社の不正に対しては,大変に厳しいため,法律の適用があれば,被害者にとっては有利です。

この点について,今回,「米国預託証券」についてアメリカの証券取引法の適用がない,という判断がされたという報道がされているようです。

ただ,株式そのものではないとしても,アメリカの証券取引所で売買をされていた「米国預託証券」に,証券取引法などの適用がない,というのは,どうも奇妙な結論のようにも思えます。

それだと,「米国預託証券」を買った人が全く保護されないということになります。

そうなると,そんな危険な「米国預託証券」を誰も買わなくなります。

証券取引所としても,そういう結論は困るのではないでしょうか?

この点については,被害者側も,より上級の裁判所に不服の申立をするという話のようですので,引き続き,争いはつづくようです。

報道されているとおりだとすれば,上級審で判断が変更される可能性もありますので,今回の判断が最終的なものでもないだろうと思います。

 

 

東京証券取引所で東芝株を買っていたアメリカの投資ファンド系のグループについて

 

他方で,カリフォルニアの裁判所には,東京証券取引所で東芝株を買っていたグループも集団訴訟を起こしています。

こちらの訴訟の場合には,「東芝に対して,アメリカで裁判を起こすことができるのかどうか」が法律上の争点となっているようです。

今回のように,不正会計をおこなった企業が日本に上場しており,その株式を買った投資家がアメリカに在籍している,という国際的な法律問題には,

日本で裁判を起こすべきなのか,アメリカで裁判を起こすべきなのか,それとも,日本とアメリカの両方で裁判を起こせるのか,という問題が発生します。

 

この領域の法律問題を

国際裁判管轄

といいます。

 

今回の件のような上場している企業の不正会計問題の場合には,

「どこの証券取引所に上場されている株式を買ったのか?」

を基準として国際裁判管轄を決めることが多いようです。

 

通説にしたがえば,東京証券取引所で直接東芝株を買っている場合には,管轄は日本,ということになる可能性があります。

ですので,カリフォルニアで起こしている裁判については,アメリカでは裁判を起こすことはできず,日本で裁判をするべきだ,という結論となる可能性があります。

 

もっとも,国際裁判管轄は,わりと,ルールにあいまいなところがあり,判断もケースバイケースであったりするので,通説どおりにいくともかぎりません。

 

 

日本への影響は?

さて,そういうふうに,アメリカでの東芝に対する集団訴訟には,

  • アメリカの証券取引所に上場されている「米国預託証券」にアメリカの証券取引法が適用されるかどうか
  • 東京証券取引所で東芝株を買っていたアメリカの投資ファンドが,アメリカで裁判を起こせるのかどうか

 

という,日本での集団訴訟にはない,特殊な問題があります。

 

この点,日本での集団訴訟では,

  • みなさんが買ったのは東芝の株式であるため,日本での金融商品取引法が適用されることは当然であること。
  • 日本の事件であるので,日本に国際裁判管轄があることは当然であること

 

ということで,アメリカでの集団訴訟に特有の問題は発生しません。

ですので,今回のアメリカの裁判は,日本の裁判には影響はないと言えます。

日本の裁判には存在しない争点ですので。

「そもそも裁判を起こせるのか」

という争点が存在しない,という点では,今回の集団訴訟は,アメリカで起こすより,日本で起こした方が,裁判としては起こしやすい,ということは言えるでしょうか。