「東芝、歴代3社長ら5人提訴=計3億円の賠償請求―不正会計」との報道の解説

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吉田泰郎

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高松の弁護士吉田泰郎です。事務局長 兼 広報担当です。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら
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日経新聞などで、東芝が、粉飾決算の元凶であった、前社長の田中氏のほか、佐々木則夫氏、西田厚聡氏の元社長2人と、村岡富美雄氏、久保誠氏の元財務担当役員2人に対して、損害賠償請求の裁判を起こした、という報道がありました。

この裁判は、会社としての東芝が、東芝の元社長などの幹部であった者の個人の責任追求を行う、というものです。

それだけ聞くと、まるで、東芝が自主的に、元幹部の責任追及をおこなっているように思われるかもしれません。

しかしながら、この件は、9月に、奈良県の個人株主が、東芝に対して、元幹部および現役幹部28人に対して、10億円の損害賠償請求を求める「提訴予告の通知」をしたことを受けてのことです。

会社法では、そういう請求があった場合には、60日以内に会社が旧経営陣を提訴しない場合には、株主に、株主代表訴訟を起こす権限が与えられることになります。

9月に、「提訴予告通知」が東芝にとどきましたので、60日の期限のギリギリになって、ようやく、東芝は、重い腰を上げた、ということになります。

決して、東芝が自主的に、積極的に、元幹部の責任を追求しようとしているわけではないことが、よくわかります。

今回の報道ですが、まず、責任を「5人」だけに限定したことが問題です。

さすがに、歴代3社長だけではまずいと考えたのか、財務担当役員も付け加えているようですが、それだけの取締役しか責任がないのでしょうか?

疑問が残ります。

さらに、私たちが驚いたのは、損害賠償の請求金額が「合計で3億円だけ」という点です。

しかも、3億円という金額は「回収可能性を考慮して決めた」などという非合理的なことを言っています。

「回収可能性」などと、ちょっと賢そうな言い方をしていますが、それはつまり、

「3億円くらいだったら、元社長さん方が支払えると言っているから、それでいいです。」

という考えで3億円にした、ということです。

責任追及をおこなう裁判の損害賠償請求金額を、相手方のフトコロ事情を考えて金額を決めるなんて、腰抜けを通り越して、談合だと言われて仕方ありません。

損害賠償というのは、元経営幹部が粉飾決算という違法行為をおこなった結果、会社に発生した損害の賠償を請求するものです。

「払える金額だけ払って下さい」などという考えとは、全く異なります。

もともと、奈良の個人株主が、提訴予告通知の段階で「10億円」という金額を出したのは、

「粉飾決算という違法行為がなければ、東芝が粉飾決算の金額を調査するための第三者委員会を設置することはなかった。

第三者委員会を設置することがなければ、東芝が、第三者委員会の設置に必要な費用10億円を支出することは、あり得なかった。

したがって、第三者委員会の設置費用である10億円は、粉飾決算によって東芝に発生した最低限の金額である」

という考えにもとづくものです。

ですから、元幹部に請求するべき金額は、最低限10億円であるべきでしょう。

また、11月の段階では、9月の段階から、さらに事情が変化しています。

東芝は、元幹部・現役幹部を問わず、粉飾決算について、責任があるのか、ないのかを調査するための第三者委員会を設置しました。

役員責任調査委員会、というようです。

この、役員責任調査委員会もまた、粉飾決算がなければ設置されることは、あり得ませんでした。

ですから、役員責任調査委員会の設置、運営にかかった費用も、当然、元幹部に請求するべきものです。

すくなくとも、数億円はかかっていることは、間違いありません。

さらに、まだ正式には出ていませんが、金融庁は東芝に対して、課徴金を請求することが確実です。

課徴金の金額は、一説には、84億円だと言われているようです。

報道どおり、84億円の課徴金の請求がされたのであれば、この課徴金もまた、粉飾決算がなければ、東芝が負担するはずはなかったお金です。したがって、粉飾決算による東芝の被害だと言えます。

そういうふうに考えていくと、(課徴金の判断は、11月8日時点では、まだ出されてはいないものの)東芝が、元幹部に請求するべき金額は、100億円以上であるべきです。

3億円などとは、まったく、桁の違う金額です。

たしかに、100億円を全部請求した場合、元幹部が個人の財産で支払えるはずはないでしょう。

でも、支払えないからいって、「賠償金額をまけてあげましょう」というのは、おかしな話です。

支払えないのであれば、自己破産するべきです。

元幹部が全員自己破産をしたのであれば、それはそれで、けじめをつけた、ということになるでしょう。

でも、3億円だけだったら、おそらく、自己破産はしないのでしょう。

東芝の言う「回収可能性を考慮した」という言い分は、つまり、

「元幹部が、自己破産をしなくてすむように、財産を少しは手元に残せるように3億円だけにしてあげました」

と理解するべきなのでしょう。

優しいといえば、優しい判断なのかもしれません。

しかし、東芝が、そういう優しい判断をするのであれば、株主に発生した損害についても、同様の優しい判断をして、全員に全額を損害賠償するべきです。

株主のなかには、老後資金の多くを東芝を信じて、東芝株に投資していた人も多かったのですから。