パート2「東芝、歴代3社長ら5人提訴=計3億円の賠償請求―不正会計」との報道の解説

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吉田泰郎

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高松の弁護士吉田泰郎です。事務局長 兼 広報担当です。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら
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前回、東芝が元幹部に請求する金額は、3億円などでは全然ダメであって、最低限10億円は請求するべきだ、という意見を言いました。

それは、もう、そういうふうに結論をつけたのですが、次に考えたいのは、

「なぜ、東芝は3億円に限定したのか?」

ということです。

以下は、私の推測にすぎない、ということを前提に聞いてください。証拠があるわけではないのです。

まず、東芝の歴代3社長は、7月に発表のあった第三者委員会の結果を踏まえて、役員などを辞職しました。

たしか、そのとき、役員を辞職するときに、一人あたり1億円くらいの退職金が支払われた、という報道があったように思います。

東芝に勤続何十年、役員手当なども付くなら、退職金1億円くらいは、十分にあり得る話です。

もし、元社長の方々が退職金の支払を辞退したのであれば、そういう報道があるはずですが、そういう報道はありませんでした。

もし、元社長3人が、退職金1億円を支給してもらい、それを現在も持っているのであれば、その金額は、1億円×3人で、3億円になります。

そうすると、「3億円」という金額には、特別な意味合いが出てきます。

つまり、東芝は「粉飾決算の中心人物であった以上、さすがに退職金は返してくださいよ、でも、退職金を返していただければ、それ以上の責任は追求しませんよ」

という意思表示をした、と解釈できるのです。

ひょっとしたら、大企業の経営幹部の感情というものは、そういうものなんでしょうか?

ただ、たとえ経営幹部が、そう思ったとしても、第三者委員会が、そういう「経営者の事情」とは別個独立の立場で、責任追及を判断しなければならないはずです。

第三者委員会のトップは、元・札幌高裁長官ということで、少しは期待するものがあったのですが、

こんなふうに「裁判官を辞めたとたん、スポンサーにおもねる」ような判断をするとは、

裁判官出身者といえども、まったく、あてにはならない、ということですね。

「世渡り上手な」元裁判官だと思います。

また、もう一つ、気になるのは、役員責任賠償保険は適用されないのか?ということです。

上場会社の役員は、通常、役員責任賠償保険、という保険に入っていることが多いのです。

たとえば、東京海上日動保険の役員責任賠償保険は、こういうものです。

もっとも、無制限ではなく、上限5億円とか、10億円とかいう上限金額の設定はあることが多くはありますが。

しかし、少なくとも、一人あたり1億円しか保険の上限がないということはあり得ないでしょう。

交通事故に備えた、車両保険ですら、1億円くらいはカバーしているのが当たり前です。

まして、役員賠償責任保険で1億円だけしかない、ということは、考えられません。

そう考えると、合計で3億円という金額は、元社長3人が、ひとりずつ、役員賠償責任を1億円だけ使ってしまえば、楽に払えてしまう金額です。

もし、役員賠償責任保険から支払えるとすれば、元社長3人は、

退職金を一人1億円もらったうえで、

東芝からの責任追及に対しては、保険対応してもらって、自腹は傷まない、ということになるのでしょうか?

はあ……アメリカには、そういうふうに、会社を倒産させても、私財はがっちり確保して、

悠々自適に余生を過ごすという、ワルがいると聞いたことがありますが、

日本の経営者も、ワルいところだけ、アメリカ化したものですね。

もっとも、退職金が1億円、とかいうあたりが、いかにも庶民的で、みみっちくて、イヤですが。

さて、そこまで考察したうえで、考えるべきなのは、

「なぜ、東芝は、そういうふうに、元役員の責任追及を甘くするのか?」

という疑問です。

よく、会社法の本などでは、会社の元経営幹部に対する責任追及は、「現在の経営陣との人的関係があることにより、十分な責任追及がなされないことが多い」

と説明されることがあります。ようするに、

「元経営幹部といっても、昔からよく知ってるセンパイだし、上司だったので、心情的に、責任追及しにくい」

ということです。

ただ……いくらなんでも、今回のように、意図的に粉飾決算をおこない、しかも、その金額が2000億円以上、というケースで、

「仲が良かったし、昔のセンパイをだから遠慮している」

ということが理由だとしたら、あまりにも、アホっぽいです。

さすがに、東芝の社長にまで昇りつめた、現社長は、そこまでアホだとは思えません。

現社長は、「悪いのは全て、前社長と、歴代の社長であって、私には関係がありません」

といって、前社長たちに責任をなすりつけた方が得な面もあるとあると思うのです。

逆に、今回みたいな、甘い処分だと、「元経営陣に対する責任追及が甘すぎる」

として、逆に、株主から、自分の個人責任を追求される可能性があります。

では、現社長は、なぜに、元幹部を厳しく責任追及しないのでしょうか?

おそらく「過去の粉飾決算について、元幹部に厳しく責任追及をした場合、自分自身も、責任追及をされる可能性がある」

と思っているからではないでしょうか。

もともと、現社長は、東芝の粉飾決算がおこなわれていた時期に役員をつとめていたわけですから、たしかに、厳しく責任追及をされた場合には、責任を問われるべき立場にもあります。

実際、奈良の個人株主の株主代表訴訟の提訴予告通知には、現社長の名前もあったのです。

そうだとすると、現社長は、「自分が責任追及をされたくないために、元幹部に対する責任追及も甘くした」のではないか、と思うのです。

さて、そういうふうに「責任を逃れるために権力を握っておきたい」と考えている人間は、少し、やっかいです。

権力を手放したら、その瞬間に追われる立場になる、という恐怖があります。

そうすると、「自分の身の危険を感じるがゆえに、権力を手放さない」という、

まるで、日本の周辺にあるような、独裁国家と同じ現象になるのではないでしょうか?

現社長の体制は、当初は「場つなぎ」みたいに言われていましたが、

ひょっとすると、長期政権になるのかもしれません。