日本経済新聞「東芝、責任調査委員会を設置 不適切会計期間の役員を調査へ 」との報道について

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吉田 泰郎

高松の弁護士吉田泰郎です。東芝事件株主弁護団では、事務局長 兼 広報担当をおこなっています。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら

平成27年9月17日
日経新聞
東芝が責任調査委員会を設置した,という報道がされました。
この責任調査委員会の目的は,東芝が粉飾決算をしていた期間である,2008年度から2014年度4月~12月の間に役員であった者に,粉飾決算の責任があるのかないのか,ということを調査することだとされています。
調査の対象とされている役員には,すでに東芝を退職している役員のほか,現在の社長である室町社長も含まれている,とのことです。
これは,先般,奈良の個人株主の方が,東芝に対して,株主代表訴訟の提訴通知をだしたことと関係しています。
提訴通知を東芝が受け取ってから,60日以内に,役員に対する賠償請求を東芝がおこさない場合には,株主が東芝に代わって裁判を起こすことができるわけです。
東芝にとってみれば,60日以内に何もしなければ,
「やはり東芝は,粉飾決算をした当時の役員をかばっている」
というふうに評価されますので,何もしないわけにはいかない,ということになります。
ただし,社内で検討をするだけでは
「当時の役員と癒着して,正しい判断ができない」
というふうにみられる可能性がありますので,責任調査委員会のトップである「委員長」を第三者にした,ということです。

報道記事では,委員長は「弁護士で元札幌高裁長官」の方がついた,ということになっています。
このあたり,え?この人は,弁護士なの?裁判官やめたの?
という疑問が出てくるかもしれません。

裁判官には定年があります。
例外をのぞき,65歳で退職することになります。

このかたは,札幌高裁長官を最後に,定年したということだろう,と思います。

なぜ,そう言えるのか,ということですが,

札幌高裁長官というのは,札幌高等裁判所で,一番エライ人ということになります。
札幌高等裁判所は,北海道全部を管轄としています。
ですので,札幌高裁長官は,司法の世界でいえば,北海道で一番エライ,ということになります。
高等裁判所は,東京,大阪,名古屋,福岡,札幌,仙台,広島,高松にしかありません。
全国で8箇所しかないわけです。
ですから,高裁長官というのは,間違いなく大物です。

札幌高裁長官を最後に,定年で退官した,ということだと思います。
さて,裁判官が定年で退官した場合,その後の身の振り方ですが,退職金と年金と公務員恩給で悠々自適に暮らす,というのもひとつの考えです。

そのほか,弁護士になる,という選択肢もあります。
「へ?なんで裁判官を辞めて弁護士になれるの?」
と思われるかもしれませんが,弁護士,検察官,裁判官は,いずれも司法試験に合格して,共通の教育機関である司法研修所を卒業しています。
法律上,司法研修所を卒業すれば,弁護士として登録をすることができることになっています。
ですので,裁判官,検察官は,官をやめてから,各都道府県の弁護士会に登録許可をもらえば,弁護士として法律実務をおこなうことができます。

ただ,裁判官も検察官も,組織の一員としては優秀であっても,いきなり弁護士として,一人で事務所をかまえる,というのは,なかなかしんどいことです。
ですので,弁護士として登録する場合には,自分の昔の知人の弁護士に話をして,法律事務所の共同経営者として迎えてもらうとか,あるいは,客員,顧問,というような形で,すでにある法律事務所に参加するようにすることが一般です。

今回,責任調査委員会の委員長として任命された方も,名古屋の共同事務所で弁護士登録をされていたようなので,昔の知人の法律事務所に入れてもらったのかな?
と思います。

こう言うと「天下り?」みたいに思われるかもしれませんが,司法の業界というのは,奇妙なくらいに,天下りのない業界です。
定年後の仕事は,だいたい,司法研修所の同期の弁護士の事務所に誘われていく,ということが多いです。
また,「元高裁長官」という肩書が役に立つのか?という点は,相手方から「大物ですね」とは言われたり,裁判をしたときに,裁判官が丁寧な扱いをしてくれるという程度はあるかもしれませんけども,その程度の効用くらいです。
肩書だけで,負ける裁判が勝てたりとか,そういうことは,全くないので,「元○○」という肩書は,あまり意味がありません。
おそらく,本人としても,肩書で紹介されるのは,愉快ではないかもしれません。

能力で評価しろよ,と内心では,思っているでしょう。

ただ,東芝サイドとしては,「元高裁長官という人を委員長として迎えたのだから,東芝としては,やれることはやった」ということを,対外的にアピールするうえでは有効かもしれません。