朝日新聞「東芝歴代役員は計10億円賠償を 株主が提訴請求書」との記事について

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吉田 泰郎

高松の弁護士吉田泰郎です。東芝事件株主弁護団では、事務局長 兼 広報担当をおこなっています。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら

朝日新聞(および他紙)にて,東芝歴代役員に対して10億円賠償を求めるように,奈良県の個人株主が提訴請求書を東芝に送った,という記事がでています。

2015年9月9日の朝日新聞の記事「東芝歴代役員は計10億円賠償を 株主が提訴請求書」

この記事は,裁判についてのよく知っていないと誤解する可能性があるので,私が補足して説明します。

まず,この奈良県の個人株主の方がおこなおうとしているのは,「株主代表訴訟」という種類の裁判です。

「株主代表訴訟」というのは,どういう裁判かといいますと,

  • 違法な行為をして,会社に損害をあたえた取締役・元取締役がいる場合に
  • 取締役が会社を支配しているために,取締役の違法行為が野放しになっていたり,
  • あるいは,元取締役と現在の取締役との間に特別な人間関係があって,現在の取締役が元取締役に対して,遠慮してしまって損害賠償請求をしていなかったりする場合に,
  • 会社の株主が,「会社の代わりに」裁判を起こす,

という制度です。

そして,「株主代表訴訟」というのは,「本来は会社が元取締役などに対して損害賠償の裁判を起こすべきなのに起こさない」という場合だけに認められる制度ですから,いきなり最初から株主代表訴訟を起こすことはできません。

今回,東芝に対して株主代表訴訟を起こそうとしている株主は,手続きとしては,まず最初に,東芝に対して

「あの元取締役は,違法なことをして東芝に損害を与えたんだから,ちゃんと損害賠償請求しろよ」

という要求をおこなわないといけません。

これが,新聞のなかで「提訴請求書」と言われている文書のことです。

なお,「提訴請求書」を東芝に出してから,東芝が60日以内に,元取締役に対して損害賠償の裁判をおこなわないときに,株主に「株主代表訴訟」をおこなう権限が与えられます。

ですので,「提訴請求書」を出してから,最低でも60日間は株主代表訴訟を裁判所に出せません。

ところで,「提訴請求書」のなかで,東芝が元取締役に対して「10億円」を請求しろ,と書かれているわけですが,この「10億円」という数字は,おそらく,2015年7月20日に報告書を提出した第三者委員会の設置・運営費用のことと思います。

たしか,第三者委員会の設置・運営にかかった費用が10億円だったと記憶していますので。

今回の提訴請求書が「10億円」という数字を出した背景となる考えとしては,

「東芝の元取締役が粉飾決算をしなかったら,少なくとも,第三者委員会を設置することは,あり得なかった。したがって,第三者委員会の設置と運営のために必要な費用は,粉飾決算によって発生した損害だ」

というものだと思います。

もちろん,東芝が粉飾決算をおこなったせいで発生した損害は,ほかにもいっぱいあるわけですが,まずは「誰もが絶対に認めざるを得ない請求」からはじめる,という考えで,10億円,という金額からはじめたのだと思います。

株主代表訴訟の場合には,第三者委員会の費用からはじめる,というのは,よくある手法であり,手堅いやり方だと思います。

なお,報道にある「奈良県に住む株主」の方というのは,私は,おそらく,あの方だろうなあ,と思い当たるところはあります。東芝の件だけではなく,ほかにも,粉飾決算があるたびに,代表訴訟に手広く関与されている方です。
むろん,日本の証券市場を適正化させたいという強い正義感をもっている,立派な方です。
このような方が,日本でもほかにも多くいると,企業も緊張感がありますよね。

なお,「株主代表訴訟」の場合には,元取締役が賠償金を支払った場合,それは全部,東芝に対して支払われます。
裁判を起こした個人株主には,1円ももらえないようになっています。

ですので,株主代表訴訟をおこなう株主,というのは,純粋に正義感でおこなっていると言えるのです。