日別アーカイブ: 2015年9月10日

毎日新聞「課徴金、過去最大に 引当金84億円計上」との報道の解説–東芝粉飾事件とたたかう弁護団

毎日新聞などで,東芝の粉飾決算に対する課徴金が84億円になる「見込み」だという報道がありました。

この「課徴金」という制度について解説します。

「課徴金」という制度は,わりと最近に導入された制度です。

東芝の事件のように,粉飾決算などで虚偽の内容の有価証券報告がされていた場合に,行政庁が企業に対して「ルール違反に対してお金を支払え」というものです。

ただし,「課徴金」というのは,司法手続きとは異なり,行政限りの命令です。

ですから,刑罰としての「罰金」とは異なります。また,刑罰ではないので,「課徴金」についての裁判は開かれません。

また,「課徴金」は行政だけの制度ですので,司法手続きは,課徴金とは別におこなわれる可能性はあります。
「課徴金」にもとづく金銭の納付がされたからといって,それで全てが許されるわけでは全くありません。

また,「課徴金」を支払うのは,会社である東芝です。ですから,東芝を退職した,粉飾決算について責任のある元取締役の責任は,まだ追及されていないことになります。

元取締役個人の刑法上の責任を追及する可能性があるのは東京地方検察庁ということになります。

刑法上の責任追及がされるかどうかは,これからの事態の進展によるので,なんとも言えません。

ただし,過去の事例をみると,1200億円程度を粉飾決算していたオリンパス事件のときには,中心人物であった元取締役は逮捕され刑事裁判にかけられ,有罪となりました。

オリンパス事件の場合には,バブル崩壊のときの会社の損害を,20年以上前の役員たちの時代から隠し続けていた(と報道されている)わけですから,中心人物であった元役員の責任がどの程度あるのか,疑問に思うところも多少はあったのですが,有罪になったわけです。

それと比較すると,今回の事件は,粉飾決算の金額も大きいですし,元取締役3人が中心となって始めたものでもあると思われますので,刑事上の責任は追及されてしかるべきだとは思っています。

なお,ちまたには,
「東芝は大会社だから検察が遠慮をしているのでは?」
「東芝のOBが総理大臣と近いから検察が遠慮をしているのでは?」
と考えている人がいるかもしれませんが,検察が,そういう理由で捜査を遠慮するとは,全く思いません。

検察が遠慮をするのは,大物政治家とか,大物官僚に対してぐらいであり,その他の民間の人間に対して,検察が遠慮をするということは,全くあり得ません。

検察にとっては,大会社の社長であろうが,高校生だろうが,ラーメン店の従業員だろうが,とくに区別はありません。

そもそも,ライブドア事件のときには,堀江氏は,時の総理大臣の陣営から依頼を受けて衆議院議員に立候補したほど,総理大臣に近い立場にいたわけですが,それでも,検察は,全く遠慮しなかったわけです。

そのことを考えれば,東芝のOBが,時の総理大臣と近いという程度の事情は,検察にとっては,全く考えるに値しない事情です。

 

 

朝日新聞「東芝歴代役員は計10億円賠償を 株主が提訴請求書」との記事について

朝日新聞(および他紙)にて,東芝歴代役員に対して10億円賠償を求めるように,奈良県の個人株主が提訴請求書を東芝に送った,という記事がでています。

2015年9月9日の朝日新聞の記事「東芝歴代役員は計10億円賠償を 株主が提訴請求書」

この記事は,裁判についてのよく知っていないと誤解する可能性があるので,私が補足して説明します。

まず,この奈良県の個人株主の方がおこなおうとしているのは,「株主代表訴訟」という種類の裁判です。

「株主代表訴訟」というのは,どういう裁判かといいますと,

  • 違法な行為をして,会社に損害をあたえた取締役・元取締役がいる場合に
  • 取締役が会社を支配しているために,取締役の違法行為が野放しになっていたり,
  • あるいは,元取締役と現在の取締役との間に特別な人間関係があって,現在の取締役が元取締役に対して,遠慮してしまって損害賠償請求をしていなかったりする場合に,
  • 会社の株主が,「会社の代わりに」裁判を起こす,

という制度です。

そして,「株主代表訴訟」というのは,「本来は会社が元取締役などに対して損害賠償の裁判を起こすべきなのに起こさない」という場合だけに認められる制度ですから,いきなり最初から株主代表訴訟を起こすことはできません。

今回,東芝に対して株主代表訴訟を起こそうとしている株主は,手続きとしては,まず最初に,東芝に対して

「あの元取締役は,違法なことをして東芝に損害を与えたんだから,ちゃんと損害賠償請求しろよ」

という要求をおこなわないといけません。

これが,新聞のなかで「提訴請求書」と言われている文書のことです。

なお,「提訴請求書」を東芝に出してから,東芝が60日以内に,元取締役に対して損害賠償の裁判をおこなわないときに,株主に「株主代表訴訟」をおこなう権限が与えられます。

ですので,「提訴請求書」を出してから,最低でも60日間は株主代表訴訟を裁判所に出せません。

ところで,「提訴請求書」のなかで,東芝が元取締役に対して「10億円」を請求しろ,と書かれているわけですが,この「10億円」という数字は,おそらく,2015年7月20日に報告書を提出した第三者委員会の設置・運営費用のことと思います。

たしか,第三者委員会の設置・運営にかかった費用が10億円だったと記憶していますので。

今回の提訴請求書が「10億円」という数字を出した背景となる考えとしては,

「東芝の元取締役が粉飾決算をしなかったら,少なくとも,第三者委員会を設置することは,あり得なかった。したがって,第三者委員会の設置と運営のために必要な費用は,粉飾決算によって発生した損害だ」

というものだと思います。

もちろん,東芝が粉飾決算をおこなったせいで発生した損害は,ほかにもいっぱいあるわけですが,まずは「誰もが絶対に認めざるを得ない請求」からはじめる,という考えで,10億円,という金額からはじめたのだと思います。

株主代表訴訟の場合には,第三者委員会の費用からはじめる,というのは,よくある手法であり,手堅いやり方だと思います。

なお,報道にある「奈良県に住む株主」の方というのは,私は,おそらく,あの方だろうなあ,と思い当たるところはあります。東芝の件だけではなく,ほかにも,粉飾決算があるたびに,代表訴訟に手広く関与されている方です。
むろん,日本の証券市場を適正化させたいという強い正義感をもっている,立派な方です。
このような方が,日本でもほかにも多くいると,企業も緊張感がありますよね。

なお,「株主代表訴訟」の場合には,元取締役が賠償金を支払った場合,それは全部,東芝に対して支払われます。
裁判を起こした個人株主には,1円ももらえないようになっています。

ですので,株主代表訴訟をおこなう株主,というのは,純粋に正義感でおこなっていると言えるのです。