毎日新聞などで,東芝の粉飾決算に対する課徴金が84億円になる「見込み」だという報道がありました。
この「課徴金」という制度について解説します。
「課徴金」という制度は,わりと最近に導入された制度です。
東芝の事件のように,粉飾決算などで虚偽の内容の有価証券報告がされていた場合に,行政庁が企業に対して「ルール違反に対してお金を支払え」というものです。
ただし,「課徴金」というのは,司法手続きとは異なり,行政限りの命令です。
ですから,刑罰としての「罰金」とは異なります。また,刑罰ではないので,「課徴金」についての裁判は開かれません。
また,「課徴金」は行政だけの制度ですので,司法手続きは,課徴金とは別におこなわれる可能性はあります。
「課徴金」にもとづく金銭の納付がされたからといって,それで全てが許されるわけでは全くありません。
また,「課徴金」を支払うのは,会社である東芝です。ですから,東芝を退職した,粉飾決算について責任のある元取締役の責任は,まだ追及されていないことになります。
元取締役個人の刑法上の責任を追及する可能性があるのは東京地方検察庁ということになります。
刑法上の責任追及がされるかどうかは,これからの事態の進展によるので,なんとも言えません。
ただし,過去の事例をみると,1200億円程度を粉飾決算していたオリンパス事件のときには,中心人物であった元取締役は逮捕され刑事裁判にかけられ,有罪となりました。
オリンパス事件の場合には,バブル崩壊のときの会社の損害を,20年以上前の役員たちの時代から隠し続けていた(と報道されている)わけですから,中心人物であった元役員の責任がどの程度あるのか,疑問に思うところも多少はあったのですが,有罪になったわけです。
それと比較すると,今回の事件は,粉飾決算の金額も大きいですし,元取締役3人が中心となって始めたものでもあると思われますので,刑事上の責任は追及されてしかるべきだとは思っています。
なお,ちまたには,
「東芝は大会社だから検察が遠慮をしているのでは?」
「東芝のOBが総理大臣と近いから検察が遠慮をしているのでは?」
と考えている人がいるかもしれませんが,検察が,そういう理由で捜査を遠慮するとは,全く思いません。
検察が遠慮をするのは,大物政治家とか,大物官僚に対してぐらいであり,その他の民間の人間に対して,検察が遠慮をするということは,全くあり得ません。
検察にとっては,大会社の社長であろうが,高校生だろうが,ラーメン店の従業員だろうが,とくに区別はありません。
そもそも,ライブドア事件のときには,堀江氏は,時の総理大臣の陣営から依頼を受けて衆議院議員に立候補したほど,総理大臣に近い立場にいたわけですが,それでも,検察は,全く遠慮しなかったわけです。
そのことを考えれば,東芝のOBが,時の総理大臣と近いという程度の事情は,検察にとっては,全く考えるに値しない事情です。