東芝事件株主弁護団の発足にあたって(2)

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吉田泰郎

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高松の弁護士吉田泰郎です。事務局長 兼 広報担当です。 吉田の詳しい自己紹介ページはこちら
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アメリカで、2001年エンロンが破綻し、2002年にワールドコムが破綻しました。

たんに業績が悪化した、というだけの破綻ではなく、巨額の粉飾決算をおこなっていたことが発覚しての破綻でした。

粉飾決算の発覚までは、超成長企業、超優良企業ということになっていましたので、株価も非常に高いレベルでした。

そのため、粉飾決算の発覚により、高かった株価は、あっという間に急落しました。

運悪く、エンロン、ワールドコムに投資していた株主は、生きた心地がしなかったでしょう。

粉飾決算が発覚する直前までは、さまざまな投資雑誌で買い推奨されていましたから、個人投資家で買っていた人も多かったのです。

エンロン、ワールドコムが破綻したあと、株主の依頼を受けて、エンロン、ワールドコムの取締役などの関係者、会計事務所などに対する弁護士による集団訴訟が一世を風靡していました。

私も覚えていますが、その当時、Newsweekなどの雑誌には、

「弁護士によるwolf pack(ウルフ・パック)が開始される!」

などという見出しで、少し茶化したようなイラストが掲載されていました。wolf pack(ウルフ・パック)というのは、狼の集団による襲撃、という意味です。

たしか、弁護士の集団が、全員、タイマツを持って、焼き討ちに行くようなイラストでした(笑)。

なお、wolf pack(ウルフ・パック)というのは、単に狼の集団を指すだけでなく、特別な意味合いのある言葉です。

第二次世界大戦のときに、ドイツの潜水艦部隊がとった作戦です。非常に有効な作戦であり、当時のアメリカ海軍は、wolf pack(ウルフ・パック)に、非常にてこずっていました。

※ドイツ語では、Wolfsrudeltaktik(狼の群れの戦術)

日本語の翻訳で言えば、「群狼戦術(ぐんろう・せんじゅつ)」といいます。日本語の翻訳のほうが、元のドイツ語の意味合いに近いと思います。英語のwolf pack(ウルフ・パック)という言葉からは、「戦術」という、知的要素が抜け落ちています。

おそらく、当時は、戦時中ということもあり、ドイツ人に知的要素を認めたくなかったのでしょう。

群狼戦術をくわしく解説することは、本ブログの目的ではありませんので、簡単に要素だけを言いますと、

  • アメリカからイギリスに戦争用の物資を運ぶ輸送船団を狙う。
  • 輸送船団の場所はわからないので、ドイツの潜水艦部隊は大西洋に散らばって輸送船団を探す。
  • 輸送船団を発見した潜水艦は、すぐには攻撃をかけず、通信電波を通じて、ドイツの潜水艦に集合をかける。
  • 十分な数のドイツの潜水艦が集まったら、襲撃時間を決めて、一斉に攻撃を開始する。

というものです。

集団で計画的に行動する、というところから、弁護士の大企業に対する集団訴訟は、大規模輸送船団を集団で攻撃する、ドイツ潜水艦部隊のようだ、と例えられたのでしょう。

そういうふうに、アメリカにおいては、こういう集団的な証券訴訟は、華やかでした。

それが善か、それとも、悪とは言わないまでも少しやり過ぎなのか、人によって評価はわかれるとは思いますが、社会的に注目されていたことは間違いありません。

アメリカの集団的な証券訴訟が華やかなのは、クラス・アクションという制度と、懲罰的損害賠償、という、アメリカ司法界の独特の制度もかかわっています。

さて、そういう、アメリカの集団訴訟と日本を単純に比較するというのも、おかしな話ではあります。

というのは、日本には、クラス・アクション制度もなければ、懲罰的損害賠償制度もありません。証券に関する法律も違いますし、国民性も違います。

制度も国民も異なる2つの国の事情を単純に比較するというのは、科学的な議論にはなりません。

ですから、アメリカと日本の比較はしません。

ただ、あくまで、文学的、叙情的に言えば、私は、以下のように考えています。

アメリカのような訴訟社会になるのは困る、と多くの日本人が思っています。

たしかに、訴訟が多い国、というのはなんかギスギスしていて、良くない印象があります。

ただ、そういう「良くない」訴訟社会よりもさらに悪い、最悪の社会、というものがあります。

それは、大企業が一般市民に損害を与えても、裁判が起こせない社会、です。

そういう社会は、訴訟社会よりも望ましいでしょうか?

日本がそういう社会でなければいいですね。